片足で立って靴下を履けない人がいます。にわかに信じられないかもしれませんが、お年寄りのみならず、若年層でもそのような人が増えています。運動機能障害が原因だそうです。
片足立ちで靴下が履けない人だけでなく、何でもない場所でつまづいて転ぶ人、階段を上るのが辛い人なども同じ。
ロコモ(ロコモティブシンドローム)と呼ばれ、将来「寝たきり」になってしまう可能性があります。超高齢化社会に向けて2007年に日本整形外科学会が提唱した概念です。
そもそもロコモは、筋肉や骨、関節、軟骨……といった運動器に障害がある状態を指すようですが、これと似た状態に陥っている企業が最近多くなったと私は受け止めています。頭ではわかっていても、脳から発信される信号どおりに体が正しく動いてくれない、そんな企業のことです。
ロコモを改善するには?
ここで大事なのは「正しく」という部分だと私は考えています。
足や手は、頭の指令どおりに動こうとします。立ったまま靴下を履こうとすれば、その通りの動作をしようとします。しかし、ロコモの人は正しく動かない。足が期待どおりに上がらなかったり、体を支えようと踏ん張ることができないのです。
つまづいてしまう人、階段を上るのがしんどい人もそう。気持ちに体がついてこない。脳からの指令が運動器へうまく伝達しないせいだと言われています。
これは企業においても同じです。
会社が起ちあがったころの経営スタイルは、だいたいが社長のワンマン。
社長が「頭脳」で社員が「手足」となって(ベンチャー企業だと社長自身が手足の場合も)いるので、何事もスピーディに物事が進みます。
意思決定スピードが速いだけでなく、結果が出るスピードも速い。
結果はもちろん良い場合も悪い場合もありますが、良い場合は行動を強化して、悪い場合は行動を改善して、またスピーディに実践しますから、一定の期間が過ぎると期待どおりの成果が出る可能性が高まります。
いっぽう組織が大きくなると、社長や経営幹部、各種プロジェクトチームで考えたアイデアを、誰かに実践してもらおうとしたとき、うまく伝わらなかったり、歪曲化して受け止められたりして「正しく」動かないことが増えます。
思った以上に足が上がらなかったり、踏ん張れなかったり、判断が遅くてつまづいて転んだり、ストレス耐性が低くて階段を上り切る力がなかったり…
これはまさに人間のロコモと同じ。企業もロコモになっている可能性があるのです。
ブラック企業のように、コンプライアンス違反をしているのであれば、客観的な判断がしやすい。人間でたとえると、犯罪をおかしているのですから問答無用で罰せられます。
赤字企業は、マーケットからの支持をあらわす「利益」が出ていないのですから、人間でたとえると病気。病気になっているのですから、こちらのケースも客観的に判断がしやすく、病院へ行けばいいのです。外部のチカラを借りて再建することが重要です。
あなたは「問題」を自覚していますか?
しかしロコモ企業は、自覚が足りません。「問題だ」と自覚していないことが問題なのです。
人間でも、片足で立って靴下が履けなくても、たまにつまづいたりしても、「それがどうした?」と言いたくなります。「将来、寝たきりになるかもしれない」と周りに忠告されても「そんな大袈裟な」と言い返したくなります。
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。
クライアント企業で働く人たちの努力で目標を達成させることが大事だと考えていますから、たまたま外部環境が変わったので業績が好転した――といった他力に頼ったりしません。
成果が出るかどうかは別にして、まず社内で考えたアイデアが、組織行動に結びついているかを注視します。
いわゆる「組織の運動機能」です。
上司から部下への伝達力、リーダーシップスキル、信頼関係、部下の行動習慣や意識――すべてが関わっています。
どれか一部にでも障害があれば「正しく」行動されないため、「運動機能障害」に陥っていると判断してもいいのです。
ヒドイ場合は、社長や幹部、中間管理職が会議を繰り返し、課題解決案を出し続けるのにもかかわらず、現場は現場のやり方で、行動をしているとするなら、企業の「ロコモ度合い」は非常に高いと言えるでしょう。
人間でたとえるなら、頭で考えていることと、体の動作があまり一致しない、ということですから。組織の「運動機能」がきわめて悪く、「寝たきり企業(ゾンビ企業)」になることも、それほど遠くないと言えます。
会社存続に大切なこと
多くの社長は「企業を永続させたい」「サステナブルな組織にしたい」と口にはしますが、健全な状態で存続させることが大事です。
組織において、何が筋肉で、骨で、関節で、そして軟骨なのか。
それら運動器が正しく機能しているかを常に頭に入れて定期的にメンテナンスをつづけていきましょう。そうでないと「ロコモ企業」になってしまいます。
当社は、本当に立ったまま靴下を履けるだろうか、気持ちに体がついてきているだろうか、と。経営者は自問自答していくことが重要です。