ここ最近、世間を賑わせているセブンイレブン事件。
事件の発端は南上小阪店のオーナーが人手不足を理由にひっそりと深夜営業を廃止したことから始まりました。
セブンイレブン側はFC契約書に「合意のない営業時間の変更は契約解除の理由にあたる」と明記してあり、その主張は間違っていませんでした。
しかし、この騒動が世にさらされると状況は一変。世論を巻き込んだ大きな事件に発展しました。
ここで興味深いのが、セブンイレブン側は深夜営業を廃止すると前後の売上も落ちるため、店の利益に悪影響が及ぶという主張であったのですが、逆の結果が出たことでした。
この店では深夜営業をやめることで店の利益が『増えた』のです。
労働時間のパラダイムシフト
我々は長時間働くことを美徳と感じています。
これは私と同世代の40代、もしくはそれよりも上の世代がこの発想を持っており、長時間働くことで、より多くの売上が残り、そして利益も残るという考えを抱いています。
人件費という投入量を全く無視(サービス残業)して、売上の拡大だけに着目したやり方です。
この発想が日本の生産性に影響を与えているのか、OECDの加盟国36か国中、日本の生産性は21位と低く、効率の悪い労働をしていることがよく分かります。
そこで政府が手を打ったのは、働き方改革。
働き方改革の主目的は労働人口が減少していく事の対策ではありますが、高齢者や女性の活用を促進して労働人口を増やすという事だけでなく、生産性をアップするという目的もあります。
中でも時間外労働の上限規制は、私はある意味、政府が企業に対して仕掛けたストレッチ目標だと考えています。
労働人口が減っていく中、生産性を上げなければ日本は縮小していく。
そのために労働時間を制限して、無理くり生産性を上げるように命じているのです。
長時間労働で売上を上げるのではなく、限られた時間でいかに売上を上げるのかにシフトしていかなければならない時代になってきたのです。
生産性アップを迫られる営業組織
これまでは気合と根性で「目標達成するまでは帰ってくるな!」というマネジメントがまかり通りましたが、今後はそうはいきません。労働時間が限られる中で、どのように売上・利益を上げていくのかを本気で考えなければならなくなったのです。
では、営業担当者のスキルアップを促し、生産性を上げていくのでしょうか?
それは少し時間がかかりすぎる懸念があります。
また、売り手市場で思ったような人材を確保できない状況からも人に依存しすぎるのは危険であると思われます。
では、どうすれば良いのか?
それは『分業』という発想が改善の糸口になるかもしれません。
いわゆる営業プロセス全てを1人の営業担当者が担当するのではなく、分業という発想を営業組織に組み入れるのです。
エース一人が投げ切るのではなく、先発、中継ぎ、クローザーを用意して、その1つ1つの役割を割り振り、特化してもらう方法です。
なぜ分業が必要なのかというと、生産性というのは専門化を図ることで経験曲線効果(エクスペリエンスカーブ)が効きやすくなるからです。
経験曲線効果とは、累積生産量の増加に伴って単位当たりのコストが低減していくという理論です。簡単に説明すると、人は実施した回数が多くなれば、慣れによって生産性が上がるという理論です。
全ての営業プロセスを1担当者が行っていると、覚えることも多くなり育成に時間がかかります。そして生産性を上げようにもやることが多くて、慣れるのに時間が掛かります。
1担当者に全てを任すのではなく、プロセスに分解して、似たような作業を繰り返し行う。そうすることで、経験曲線効果を効かせた営業活動を実現することができるようになるのです。
営業プロセスの分解法
では営業プロセスをどのように分解すれば良いのでしょうか?その分解方法として知っておいていただきたい概念があります。
それがセリングプロセスという概念です。
セリングプロセスとは、営業のプロセスを「種まき」「水撒き」「収穫」「拡張」というフェーズに分解したフレームワークです。
- 「種まき」とは、顧客のリードを獲得するフェーズ
- 「水撒き」とは、顧客を育成するフェーズ
- 「収穫」とは、具体的な商談を行うフェーズ
- 「拡張」とは、一度、購入いただいたお客様に更にファンになってもらう活動
種まきをマーケティング担当者が担い、水撒きや拡張をインサイドセールス、収穫をフィールドセールスが担当するという事ができれば理想的です。
しかし、いきなり人員をあてがう事ができれば良いのですが、一足飛びにその体制に持っていく事は難しいでしょう。
それであれば、まず営業活動を4つのステップに分解して、一部分だけでも分業を行う。まずはこんなところからスタートさせても良いのかもしれません。差し詰め、その中でも着目してもらいたいのが「水撒き」のプロセスです。
今、時代は「何を買うか」ではなく、「誰から買うか」という時代に変遷しています。
商品自体では差別化しづらくなってどこで購入しても似たような商品が手に入る。また、ネット環境の普及により商品を選別するための情報が膨大に出てくる。どこで買っても似たような商品が手に入り、商品の検討に膨大な情報があって何を選べばよく分からないという中で、人は商品自体よりもどこが提供しているのかに着目するようになっています。
スマホの詳細の機能はよく分からないが、iPhoneを選択することを考えるとご理解いただけると思います。
このように「何」ではなく「誰」から買うかという時代では、顧客により印象を残している企業が優位に立つことができるのです。
営業担当者はニーズにあるお客様には足しげく通うかもしれませんが、ニーズのないお客様には足が遠のいてしまいます。
しかし、ニーズのないお客様を放置していると、お客様のあなたに対する印象は薄くなり、いざニーズが発生しても、あなたを選択肢にすら入れていないという事になりかねません。
とはいえ、日々忙しい営業担当者にニーズのない顧客にも毎月定期的に接触を図ってくれと言ってもフォロー漏れが発生している事態になることが往々にしてあります。
そういったフォロー漏れを解消するために、フォロー専門部隊を作る。巷にいう、インサイドセールスというものの導入です。
インサイドセールスとは何か
客先へ訪問する外勤型をフィールドセールスと言い、内勤で電話でのコミュニケーションを通して営業をする方法をインサイドセールスと言います。
インサイドセールスとはアメリカではかなり普及しており、国土の広いアメリカでは取引先を訪問で回ることに時間が掛かりすぎるため、このインサイドセールスという方法が主流になってきているのです。
インサイドセールスの役割は、まだ商談とまではいかない顧客に対しても関係を維持し、「そろそろ提案したら受注できるのでは」というところまで顧客を育成していく仕事です。
このインサイドセールスを導入するにあたって気を付けるべき点は2点です。
1) 関係性維持の方法を確立する
インサイドセールスとは、お客様に売り込むのではなく関係性を維持する役割です。
営業担当者同士であっても関係性を維持する方法はマチマチで、それぞれの担当者でやり方が違ったりします。
そして関係性を維持している間にも顧客を理解するために情報収集はすべきです。
その情報項目についても整理しなければなりません。
また、うまい営業なら決裁者をそれとなく聞き出す方法もあるでしょう。
その方法も共有しなければなりません。
分業するといっても、どのような仕事をお願いするのかをまずは具体的に整理する必要があるのです。
2) ターゲットを設定する
インサイドセールスが顧客の関係を維持してくれるにも関わらず、維持した先がいつまでも商品を購入してくれない先では意味がありません。
あなたの商品がどのような顧客に望まれているのか、その企業規模は?業種は?そして誰と話すべきなのかも明確にしておく必要があります。
いわゆる購入してくれやすい顧客属性の整理です。
この2点があなたの会社の中で整理できているでしょうか?
まだできていないのであれば、このインサイドセールスを導入するという事をきっかけにして整理してみるのも良いのではないでしょうか?
そしてこの情報の整理が、インサイドセールスの導入だけでなく、営業担当者のスキルアップ、新人教育の簡素化にもつながることは間違いないと思います。
まずはKPIカウントシートを覗き込んでください。
設定されたターゲット先の定義は?関係性を維持する手法は?こんなことからはじめてみても良いのかもしれません。