こんにちは。
予材管理クラウドトレーナーの村瀬です。
私は、営業の人数が10名程度の企業様から、数百名もの企業様まで、さまざまな営業パーソンの方々にご支援しています。(予材管理ダイレクト支援)
売上か、利益か、どちらが大事なんだ?
営業の方とお話をしていると、こんな会話になることがあります。
村瀬「このままだと、売り上げ目標の達成は難しそうですが、大丈夫ですか?」
営業Aさん「いや、うちの会社は、売上じゃなくて、利益が大事なんですよ」
一方で、こんな会話をしたこともあります。
営業Bさん「会社は利益率が低すぎっていうけど、売り上げがなきゃ、工場の経費を賄うことはできないんですよ!」
このブログを読んでくださっている皆さんも、
- 「会社は、もっと利益のことを考えたほうがいいのに」
- 「売上がなきゃ、始まらないのに」
そんなことを考えたり、悩んだりしたことはないでしょうか?
目標売上を達成させるのが、営業の仕事といいますが、そもそも、この営業の目標は売上で設定すべきなのでしょうか?
それとも利益で設定すべきなのでしょうか?
今回は、「営業の目標は売上とするか、利益とするか」を考えてみます。
売上と利益ってそもそも何?
まず、「売上」と「利益」の意味を改めて、確認してみましょう。
- 売上:一定の期間に品物を売って得た代金の総額
- 利益:事業などをして得たもうけ、利潤
そして、「売上」と「利益」の関係は次の式で表すことができます。
- 売上-経費=利益
要は、品物を売って得た代金の総額から、そこにかかったお金を除いて、残ったものが「利益」です。
さらに、会計の世界では、「利益」といっても、5種類もあります。
①売上総利益 ・・・いわゆる「粗利」。売上から原価を引いたもの
②営業利益 ・・・①から販売費、一般管理費を引いたもの、本業の儲けを表す
③経常利益 ・・・②から利息や配当金、利子などを足したり引いたりした企業の総合的な収益力
④税引前当期純利益・・・③から固定資産の売却や災害による損失など、臨時的な金額を差し引きした金額
⑤当期純利益 ・・・④から税引前当期純利益から法人税、住民税等を差し引いたもので、今年の企業の最終的な利益
このブログでは、利益と言ったら、本業の儲けを表す「売上総利益」または「営業利益」のこととして、進めますね。
さらに、余裕があれば「損益分岐点」という言葉も、覚えてみてください。
※損益分岐点:売上高と費用の額がちょうど等しくなる売上高
もし売上高が損益分岐点よりも少なかったら、利益はでません。
利益を出すためには、固定費と変動費を上回るだけの売上が最低限必要ということなんですね。
- 固定費:人件費など、売り上げに関係なくかかる費用
- 変動費:原材料など、売り上げに応じてかかってくる費用
売上か利益の議論をする際には、売上が損益分岐点を上回っている。
つまり、利益を確保できるだけの売り上げがあることが大前提です。
この前提知識を踏まえて、営業部の目標は「売上」がいいのか、「利益」がいいのかをを考えてみます!
なお、会計に関して、より詳しく知りたい方は、こちらの書籍をどうぞ。
図解 ひと目でわかる!決算書
プロの意見をきいてみた。
・・・で、考えてみようとしましたが、何から考えていいかわかりません。
そこで、我がアタックスグループの代表パートナーである林に聞いてみることにしました。
林は、上場支援、再生支援、M&A支援を行ってきている、財務のプロ中のプロです。
常に全国を飛び回っているので、アタックスの社員でもなかなか会えないのですが、ちょうど出かける準備をしている姿を見つけました。
さっそく、営業部の目標は「売上」がいいのか、「利益」がいいのかを聞いてみようと思います。
村瀬「営業の目標として、売り上げがいいか、利益がいいか知りたいんですけど」
林「それは、難しいことを聞いてくるなぁ」
村瀬「どっちがいいんですかね?」
林「そもそも、企業運営のゴールは「利益」を得ることだからね。
ずっと赤字だったら、事業をしている意味がない」村瀬「確かに。ということは、やっぱり利益が重要ですか?」
林「いやいや。売り上げがなければ、利益がだせないだろう?」
村瀬「ふむふむ」
林「『トップライン』という言葉を聞いたことある?」
村瀬「トップライン?」
林「そう。損益計算書の一番上の行、つまり一行目の項目の「売上高」のことを言うんだ。
たしかにコスト削減を勧めれば、利益は増える。
ただ、それだけでは、企業は成長し続けることはできない
利益だけを追い求めて、トップラインつまり売上を疎かにすることはできないんだ。村瀬「なるほど」
林「それから、どんな計画を立てているかにもよるわなぁ。」
村瀬「計画。。」
林「例えば、ある商品を販売するときに、最初の1年だけ、格安にして販売することってあるだろ?」
村瀬「はい」
林「これは、1年目の利益を犠牲にしても、売上を上げることを目的にしているんだ。
ただ、これが、2年3年たっても、ずっと赤字だったら、事業をやっている意味がない」林「それに、多くの営業部の役割は『売上と回収』だから」
村瀬「役割。。。」
林「まぁ会社によっては販管費を見ていくところもあるから、経営が営業にどんな役割を期待しているかにもよるんじゃない?」
風のように去って行った林から、「計画」と「役割」というヒントをもらうことができました。
次は、計画と役割という切り口から、営業部の目標は「売上」がいいのか、「利益」がいいのかを考えてみることにします。
会社の「計画」から考えてみると
まずは、「計画」から考えてみます。
会社の中長期的な計画を立てる際には、経営理念を明確にした後、自社の現状を把握したり、外部環境を分析したりします。
(詳しくは『中期経営計画の作り方~社員を動かし目標達成する経営計画の策定法』)
そこで、こんな時に使える、有名なフレームワークを使って、検討してみます。
■プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)
まずは、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)というものを使ってみることにします。
PPM理論は、複数の事業を抱えている企業が、人財やお金などの経営資源を最適に配分するために、現状を分析するために使う理論です。
縦軸に、市場がどれだけ大きくなるのかという「市場成長率」
横軸に、市場をどれだけ抑えているのかという「市場シェア(占有率)」をおくので、
自社の事業の立ち位置と、取るべき戦略を整理しやすいのです。
市場の成長率とシェアの高い低い、「花形」、「問題児」、「金のなる木」、「負け犬」の4つに分類します。
①花形(成長率高、シェア高)
売上・利益ともに大きく獲得できるものの、占有率を保持・拡大するために、資源を投入し続けることが必要です。②問題児(成長率高、シェア低)
将来、花形に進化する可能性を秘めていますが、成長のためにたくさんの資源が必要です。③金のなる木(成長率低、シェア高)
市場拡大が見込めないので、資源の追加が不要な上、市場占有率の高さから安定的な売上・利益を確保することができます。④負け犬(成長率低、シェア低)
キャッシュの流入は見込めず、今後の成長も見込めないため、撤退の検討が必要になってきます
そして、それぞれのとるべき戦略はこうなっているそうです。
①花形⇒現状の市場のシェアを維持・拡大していく
②問題児⇒現状のシェアを拡大していく、または撤退する
③金のなる木⇒利益を最大化する
④負け犬⇒利益を最大化する、または撤退する
プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント理論から考えると、
それぞれの戦略の成否を測るには、
シェア拡大を目指す花形、問題児は売上がより重要
利益の最大化を目指す金のなる木、負け犬は利益がより重要のようです。
■コトラーの地位別戦略
次に、コトラーの地位別戦略というものから考えてみます。
これは、コトラーの地位別戦略とは、経営資源(経営を行う上で必要な要素、ヒト・モノ・カネ・情報)の量が多いか、質が高いかで4つに分類して、どんな戦略をとるか考える理論です。
そして、それぞれの特徴とその企業がとる戦略は次の通りです。
①リーダー:市場でのシェアが最も高く、自社のシェアを維持・拡大させるだけでなく、市場全体を拡大させる戦略を取る(例:トヨタ)⇒売り上げに重点を置く
②チャレンジャー:業界で2,3番手に位置し、リーダーに挑戦する(例:日産、ホンダ)⇒シェアの拡大、つまり売上に重点を置く
③フォロワー:業界トップを狙わず、競合他社の戦略を真似する⇒生き残るために、利益に重点を置く
④ニッチャー:シェアは高くないが、すきま市場で独自の地位を獲得する(例:光岡自動車)⇒利益に重点をおく
コトラーの地位別戦略から考えると、
リーダー、チャレンジャーは、売り上げに重点を置き、
フォロワー、ニッチャーは、利益に重点を置く。
他にもこんな戦略の時は、売り上げを重視すべきなのか、利益を重視すべきなのかを考えていただきたいのですが、いったん、この二つのフレームワークから考えると、こんな結論をだせるようです。
すなわち、
①取るべき戦略によって、売り上げを重視すべきなのか、利益を重視すべきなのかは異なる。
②規模の拡大を目指すのであれば、売り上げを生き残りをかけるのであれば、利益をというのが、基本的な方針。
が、これは、会社としての方針です。
それでは、それをそのまま営業部に落とし込んでもよいのでしょうか?
■営業部の役割から考えてみると
ここで、林のもうひとつのヒント「役割」を切り口に、営業部の目標は売上か利益のどちらが良いのかを考えてみます。
役割とは、会社から期待されているはたらきや役目のことです。
例えば、営業部だったら、「お客様と信頼関係を構築して、安定的に売上を上げる」
製造部だったら、「品質の高い商品を、安定的に供給する」などが役割と言えます。
で、大事なポイントは、「役割」だけを決めることはできないんです。
次の図を見てみてください。
こちらは、私たちがコンサルティングや研修などで必ず使う図です。
『企業が安定的に経営目標を達成させるためには、
「経営目標」「役割」「成果」「行動」と有機的につながって運用されている必要がある』
ということを説明するときに使います。
それぞれの項目の意味は次の通りです。
①経営目標:会社をこうしていきたいんだというシナリオを描く「中期経営計画」で掲げた「経営目標」のこと
例:3年後の売上を○億とするなど
②役割:経営目標を達成するために、会社から期待されているはたらきや役目のこと
例:営業なら「目標を達成させること」など
③成果:それぞれの役割を果たすために、やり切ることです。
例:営業なら「目標売上」など
④行動:会社から求められた成果を実現するために、部門や個人が実行するもののことです。
つまり、「役割」は「経営目標」を明確に定めた上で、それを実現させるために、それぞれの部署や個人に設定されるものです。
※矢印は上から下に向います
例えば経営目標として、「上場させる」という会社と「赤字体質から脱却する」という会社では、
それぞれの部署や個人に期待する役割は、異なりますよね。
そして、その役割を果たしたかどうかの指標である成果も当然異なってきます。
目標、役割、成果が紐づいた事例として、ある食品メーカーの話を聞いたことがあります。
製造業の会社では、一般に営業部には売上を成果(目標)に、製造部ではコスト削減を成果(目標)にすることが多いようです。
ところが、この食品メーカーでは、営業部と製造部の目標を逆にしたそうです。
この企業は、前に説明したコトラーの地位別戦略では、「ニッチャー」該当しました。
そのため、会社としては、ニッチ戦略を成功させる必要がありました。
そこで、営業部の役割を「より利益率の高い商品を提案させること」と定め、一方で製造部の役割を「より品質の高い商品を安定的に提供すること」と定めました。
そして、営業部の目標を「利益」、製造部の目標は「売上」(どれほどの価値を生産したか)を目標としたそうです。
このように、営業部の目標が売上か利益かはなんとなく決まるのではなく、会社から営業部に与えられている役割を明確にすれば、おのずと、「売上目標」なのか、「利益目標」なのかが決まってくるのです。
まあ、当たり前と言えば当たり前の結論ですね。
では、なぜ一番最初にみたようなちぐはぐな会話がされてしまうのでしょう?
これは、自分や自部門の役割と成果を認識していないからかもしれません。
例えば、最初の会話の例
村瀬「このままだと、売り上げ目標の達成は難しそうですが、大丈夫ですか?」
営業Aさん「いや、うちの会社は、売上じゃなくて、利益が大事なんですよ」
確かに、市場の成長率やシェア、業界内での地位から、Aさんが所属している企業は、利益をより重視したほうがいいというのは正しい判断かもしれません。
けれど、この企業が営業部に期待している役割・成果は、売上目標を達成することでした。
Aさんが、より利益率の高い提案をしようとしていることは素晴らしいことですが、売り上げ目標を達成できなければ、残念ながら会社からの期待に応えられているとは言えないですよね。
さらに、もう一度、先ほどの図を見ると、矢印は上から下だけでなく、下から上、つまり行動から計画へという方向にも向いています。
こちらは、営業が行動し、成果を出さないと、会社の経営計画は実現できないということを表しています。
さらに、経営目標を達成させるために、役割や取るべき戦略を変更するときもあるでしょう。
その際に、適切な判断をするためには、正しい情報が必要不可欠です。
下から上への矢印は、期待された行動、成果を出すということともに、判断するに値する情報を上げるということも意味しています
例えば、多くの企業で、「予材管理表」は、この4つの要素をつなげるために、予材管理表を活用しています。
なぜなら、予材管理表を適切に活用すれば、
営業部門や、営業パーソンが、
- 会社の方針・戦略を理解できているか(役割の確認)
- 目標達成への進捗状況と今後の展望はどうなっているか(成果の確認)
- 役割や成果に応じた行動をしているか(行動の確認)を、定量的にははかることができるからです。
■まとめ!
計画、役割を切り口に、営業部の目標は売り上げとするか、利益とするか考えてきました。
ここで、わかったのは、
- 営業部の目標を、売上とするか利益とするかは、会社の経営計画や、営業部に期待する役割によって決める。
- 各部門や個人が、会社に期待された役割・成果を果たさないと、会社は計画が狂ってしまう。
- 計画や戦略を適切に改善していくために、予材管理表などを使って、経営に最新の情報を伝えるのも現場の仕事。
ということでした!
目標達成のための第1歩は、「目標に焦点をあてる」ことです。
参考になれば、うれしいです。